のぎく (野菊) 

ユウガギク   2008/10/09 荒川河畔田島が原
 野菊は、家菊の対語。家菊が、栽培品であるキクを指すのに対して、野辺に野生する菊の仲間を通称する。
 いわゆる野菊の仲間を一覧する。
和名 漢名 学名 日本における分布域など
〔ほぼ全国産〕         
ノコンギク 三褶脈紫菀 Aster microcephalus  var. ovatus 北海道・本州・四国・九州に分布。園芸品はコンギク
シロヨメナ 光葉三脈紫菀 Aster leiophyllus var. leiophyllus 北海道・本州・四国・九州に分布。
シラヤマギク 東風菜 Aster scaber 北海道・本州・四国・九州に分布。若菜を食い、婿菜と言う。
〔主に西日本産〕         
ヨメナ 鋭齒馬蘭 Aster yomena var. yomena 狭義の野菊。本州中部以西(特に関西)に分布。若菜を食う。
ミヤマヨメナ 忘都草  Aster savatieri 本州(箱根以南)・四国・九州に分布。花期は5-6月。園芸品はミヤコワスレ
オオユウガギク   Aster yomena var. angustifolius 本州(愛知県以西)・四国・九州に分布。
コヨメナ 馬蘭 Aster indicus 四国・九州に分布。花期は、南方では一年中。
〔主に東日本産〕         
ゴマナ    Aster glehnii 本州・北海道に分布。
ユウガギク 柚香菊 Aster iinumae 本州(近畿以北)に分布。
カントウヨメナ   Aster yomena var. dentatus 本州(関東・東北)に分布。
 
 漢名を野菊(ヤキク,yĕjú)というものは、次のようなものである。

  アワコガネギク
(キクタニギク・アブラギク) Chrysanthemum seticuspe f. borelae
         (甘野菊・北野菊)
『中国雑草原色図鑑』245
  シマカンギク(ハマカンギク・アブラギク) Chrysanthemum indicum
         (野菊・野黃菊・苦薏)
  ホソバアブラギク Chrysanthemum lavandulaefolium
         (細裂野菊・岩香菊・野菊・甘菊)
『中国本草図録』Ⅰ/0379・Ⅴ/2360

 いずれも、花は黄色。 
 栽培されている菊については、キク Dendranthema grandiflorum を見よ。
 キク科 Asteraceae(菊 jú 科)の植物については、キク科を見よ。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』11(1806)に、「野菊 アブラギク センボンギク イハヤギク」と。
 

   なでしこの暑さわするゝ野菊かな 
(芭蕉,1644-1694)

   なつかしきしをにがもとの野菊哉 
(蕪村,1716-1783。しをにはシオン)
 
 道の真中は乾いているが、両側の田についている所は、露にしとしとに濡れて、いろいろの草が花を開いている。タウコギは末枯(うらが)れて、水蕎麦(みずそば)(たで)など一番多く繁っている。都草も黄色く花が見える。野菊がよろよろと咲いている。民さんこれ野菊がと僕は吾知らず足を留めたけれど、民子は聞えないのかさっさと先へ行く。僕は一寸脇へ物を置いて、野菊の花を一握り採った。
 ・・・
 「・・・まア綺麗な野菊、政夫さん私に半分おくれッたら、私ほんとうに野菊が好き」
 「僕はもとから野菊がだい好き。民さんも野菊が好き・・・」
 「私なんでも野菊の生れ返りよ。野菊の花を見ると身振いの出るほど好もしいの。どうしてこんなかと、自分でも思う位」
 「民さんはそんなに野菊が好き・・・道理でどうやら民さんは野菊のような人だ」
 民子は分けてやった半分の野菊を顔に押しあてて嬉しがった。二人は歩きだす。
 「政夫さん・・・私野菊の様だってどうしてですか」
 「さアどうしていうことはないけれど、民さんは何がなし野菊の様な風だからさ」
 「それで正雄さんは野菊が好きだって・・・」
 「僕大好きさ」
 民子はこれからはあなたが先になってと云いながら、自らは後になった。
                    
(伊藤左千夫『野菊の墓』1906)

    小説の舞台は、矢切の渡しを東に渡り、丘に登ったところ、
     今日の千葉県松戸市下矢切附近。
    時は、陰暦の九月十三日の「露霜が降りたかと思うほどつめたい」朝。
    一握り採った「よろよろと咲いている」野菊というのは、
     カントウヨメナか、或はユウガギクだろうか。
    なお、文中、水蕎麦はミゾソバ、都草はミヤコグサ
    蓼は種々ありえるが、サクラタデボントクタデなどか。
    タウコギは、本譜にはまだ写真が無い。
   
 文部省唱歌「野菊」(1942,石森延男作詞) 

   遠い山から 吹いて来る
   小寒い風に ゆれながら
   けだかくきよく 匂う花
   きれいな野菊 うすむらさきよ
   ・・・

     
(詠み込まれているのは薄紫色の花をさかせる野菊、
     
 ヨメナカントウヨメナノコンギクあたりか)




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